障がいを持った子どもたちの親ごさんが必ずと言っていいほど目にする言葉が「療育」です。
療育は障がいを持った子どもたちがよりよい毎日を送れるようにすることを目指します。
障がいによっては、長い文章を理解しにくいなどの認知の仕方の偏りや他人に触れられることが嫌などの苦手な身体感覚があります。
それがあるために、定型のお子さんがなにげなくやっている考え方や動作や行動ができない、理解できないことがあります。
療育はその子にとって分かりやすい環境や道具、伝え方の工夫などをすることで、お子さんの達成感を促し自己肯定感を育てます。
小さい時にたくさん成功体験を重ねることは、その後の成長の大きな力になります。
療育とは、一人ひとりのお子さんに合った方法お子さんの成長をサポートし、障がいを持った子どもたちが社会で生きやすくするための支援です
もくじ
療育を受けることで、お子さんの成長がよりスムーズになります
子どもたちは自分で成長する力を持っています。
それは定型のお子さんでも療育に通うお子さんでも同じです。
大人が何もせずに待っていても、去年よりは今年、今年よりは来年と、子どもたちのできることは増えていきます。
一方で、療育に通うお子さんには成長のスピードがゆっくりの子が多いです。
そのまま放っておくと、何を求められているのかに気づかずにずっと同じことを繰り返している場合もあります。
周りの的確な促しや助けがあることで、物事に気づきやすくなったり、安心して取り組めたりします。
つまり、療育に通うお子さんは、少しの後押しや道筋を示すことで大きく成長することがあるのです。
よく例えられるのですが、視力の弱い人に「裸眼で見なさい」というのはナンセンスです。
的確な道具(メガネ)があることで、きちんと見えるようになる。
本人の努力や気合でどうにかなる問題ではないし、何もしなくてもいつか良くなるものでもないのです。
子どもの発達の問題の場合、その道具にあたるのが療育なのです。
発達の問題は、本人や親御さんの努力でどうにかなるものではありません。
いつか自然に良くなるものでもありません。療育という道具を上手に活用すること、それがこれからのお子さんの成長によりよい効果をもたらしてくれるのです。
療育は親御さんの不安も軽減します
「うちの子、他の子とちょっと違う」
「〇歳なのに、まだ〇〇ができない」
「〇〇をしてしまうのだけど、これはいけないことなの?」
などなど、子育て中の親ごさんの悩みや疑問は尽きないものです。
療育施設は、子どもたちだけでなく親ごさんのフォローもしています。
例えば子どもの発達検査。
検査を受ければ、お子さんの育ちを具体的な数値で見ることができます。
そして専門の職員から、お子さんにとって今何が必要で今後どのようにするのが良いのかのアドバイスを受けられます。
一人で悩みを抱え込んでしまいがちな親御さんにとって、これはメリットがあります。
もちろん、アドバイスを受けたからといって必ずその通りにしなければいけない訳でもなく、今後の子育ての参考とするだけでも良いのです。
実際に療育に参加するようになると、担当のケースワーカーや担任の保育士などの身近な専門職のネットワークが周りにできますので、日々の小さなことでもすぐに相談ができます。
悩んだら一人で抱え込まずに、気軽に療育の門を叩いてみることをおすすめします。
療育を受けるのは特別なことではない、療育を受けることは悪いんだ、というレッテルを貼らないで
療育のことで悩んでいるママやパパにお伝えしたいのは、療育を受けることをそんなに特別なことと捉えないでください、ということです。
療育を受けることを、うちの子には問題があるんだといって思い悩んだりする必要はまったくありません。
療育を受けている子どもたちも実にいろいろです。
医師の診断を受けて障がい名がはっきりしているお子さんから、コミュニケーション能力や学習能力など一部だけに不安を感じているお子さんまでさまざまです。
一定期間療育に通った後に卒業して大きな集団にチャレンジしたり、チャレンジ後にまた療育に戻りフォローアップを受ける子もいます。
皆、それぞれの状況に合わせて療育を受け、自分の人生をより豊かにしようとがんばっています。
ネガティブな気持ちを持つ必要はありません。
療育を受けるかどうかの判断は、子どもが出すサインを見て決める
では、療育を受けている子どもたちにはどんなきっかけがあったのでしょうか?
療育を受けるひとつのサインは「お子さんが困っているかどうか」です。
幼稚園などの大きな集団に所属しているのだけど、どうもみんなの動きについていけない。
一斉の指示では何を伝えられているのか分からず、いつも人と違うことをしている。人混みが苦手でクラスから離れたところで一人でいる。
これらはお子さんが困っているサインです。
気になるようであれば、療育を検討しても良いかもしれません。
療育の受け方を実例でご紹介
自閉症Aくん:幼稚園には通わず、療育センターに所属
幼稚園や保育園には行かずに、地域の療育センターの通園クラスに所属していました。週に5日通い、内1日は親子通園です。
Aくんは3歳で地域の幼稚園に入園しましたが、クラスの動きには着いていけず、個別に職員が着いていました。
幼稚園側はそれでも良いと言ってくれたのですが、Aくんのお母さんは本人にとって分かりやすい環境を与えてできることを増やそうと考え、療育センター通園を選択しました。
3年間毎日通い、日常生活に必要な習慣である、身支度をする・人の話を聞く・小さな集団で過ごすなどの積み重ねができました。
その結果、養護学校へ進学した時にはクラスの優等生でした。
3年間の成長を学校の先生とも共有でき、その後のサポートの大きな助けになっています。
診断名なし Bさん:週1日午後クラス通園
Bさんは医師の診断を受けておらず、大きな集団でのコミュニケーション能力の弱さ、一斉の指示の入りにくさから療育センターに通うことを選びました。
幼稚園に所属しながら、週に1日午後の短時間クラスに通っていました。
集団での遊びの中から友だちを意識することを経験したり、机上の課題で認知力を養う活動を行いました。
年に2回、療育センターの担任がBさんの所属幼稚園を訪問し、園でのBさんの
様子の観察および幼稚園担任との情報共有をしていました。
一年後にはセンターを卒業して小学校に入学し、通常級に所属しながら定期的に地域のフォローアップの通級に通っています。
このように、同じ療育でも、お子さんによって通い方は様々です。
担当のケースワーカーやクラス担任などが、面談や記録を元に、どのような療育が最適かを見極めます。
療育に通いたい・相談したいと思ったら
療育施設にはさまざまな種類があります。
ざっと挙げるだけでも、例えば、
- 療育通所施設
- 療育入所施設
- 訓練施設
- 民間の療育教室(集団療育、個別療育)
- カウンセリングタイプの療育教室
- 放課後DAYサービス
などがありますが、大きく分類すると
- 公立または民間企業が委託運営する大きな通所施設
- 小規模団体が運営する小さめの療育サービス
にわけることができます。
はじめて相談するなら大きな通所施設へ
大きな通所施設は公立か民間委託の場合が多いです。
発達検査を行う心理士や相談を受けるケースワーカー、医療的措置を行う医師や看護師などの専門職員がおり、お子さんの状況に合わせた支援をスムーズに受けることができます。
定期的に通える療育のクラスがあるのも大型通所施設です。
療育を始めようと思ったときに初めに相談する場所にもなります。
療育方針がさまざまでバリエーションが多い小規模な療育教室
最近数が増えている民間の小規模療育教室は、療育方針も様々です。
担当職員や、教室などの環境とお子さんとの相性もあります。
見学会や体験会を行っている所もありますので、お子さんに合った療育施設を選ぶことができます。
療育にかかる費用は基本的には高額ではありません
公的な施設に通う場合
公的施設に通う料金は全額だと大きな金額になります。
ですが通い始めてすぐに障がい児受給者証を取得しますので、それを提示することで家庭が支払うのは利用金額の一割になります。
具体的な金額は、概ね年収890万円以下の家庭で上限4600円です。
年収がそれより低い場合は4600円より安くなります。
市町村民非課税世帯は0円です。
その他に実費で給食費や材料費がかかる場合があります。
給食費は一日子ども200円、大人400円くらいの所が多いです。
民間施設に通う場合
民間の療育施設に通う場合はひと月数千円~数万円まで、療育の内容や回数で金額は様々です。
民間の施設でも受給者証の対象施設になっている場合は、公的な施設と同じように利用金額の一割で通える所もあります。
ここだと思う施設が見つかった時は、利用料金について問い合わせてみることをお勧めします。
先に公的な施設に通っている場合は、担当のケースワーカーなどに相談することもできます。
幼稚園、保育園に通いながらでも、療育は受けられます
「療育の受け方」の例でも出てきたように、最近では幼稚園・保育園に通いながら、療育にも通うお子さんが増えています。
初めての大きい集団に入り、家庭の中とは違うお子さんの様子を見て不安に思う親ごさんからの相談はとても多いです。
療育に通うお子さんは、小さな集団(家庭など)の中で毎日決まった行動をすることは得意ですが、大きな集団で新しいことをしたり、毎日違うことをしたり、全体での指示やお話を聞くことが苦手なお子さんが多くいます。
声かけの仕方を変えたり、環境を変えるなどの大人側のちょっとした工夫で、幼稚園や保育園などでも伝わりやすくなる方法があります。
療育施設ではこのような方法を伝えるために、親ごさんに向けての講演会や勉強会、懇談会などを積極的に行っている所もありますし、療育施設の担任の先生にもお子さんへの対応の仕方などを気軽に相談できます。
療育施設では定期的にお子さんの所属園への訪問を行い、園での様子を見学したり、幼稚園・保育園の先生と情報の共有をしているところもあります。
幼稚園・保育園の先生が、療育施設でのお子さんの様子やクラスの進め方を見学に来ることもあり、お互いの連携が密に取れている地域もあります。
ご自分の住んでいる地域ではどのような体制が取られているのかを、相談の折に尋ねてみるのも良いでしょう。
玩具や日常の道具を使って、お家で療育ができます
療育の考え方や方法が分かってくると家でも療育の応用ができます。
療育はできるだけ色々な場所で同じ対応をすることが良いので、療育施設で行っていることを家庭でも行うことはとても良いことです。
家での療育|遊び編
療育に通うお子さんは手指の操作が苦手なことが多いです。
玩具を使って手指の遊びをすることは、運動能力を鍛えるほかに脳の発達も促します。
また、決められた場所に置く・入れるなどの動きで自分の身体をコントロールすることも覚えます。
型はめパズルやひも通し、ペグ刺しなどは、遊びながら手指の巧緻性(こうちせい=器用さ)を育てます。
また触る・見る・聞く・味わう・嗅ぐの五感を使った知育おもちゃは、お子さんの全身の発達を促します。
いろいろな素材を使った絵本、ゆらゆら揺れるモビールや優しい音の出る楽器などは、楽しみながらより豊かな経験と刺激を子どもたちに与えてくれます。
家での療育|家事編
料理や掃除をお子さんと行うことも療育に繋がります。
家庭でおやつや食事を親子で作るのは良い経験です。
日常の家事も一緒にやってみると良いです。
雑巾がけや箒での掃除は、全身のコントロールの練習にもなります。
一つひとつの活動の意味を、親ごさんが知っていることで、なにげない動きが療育になるのです。
さいごに|療育が目指すのは親子の幸せ
療育を通してお子さんの特性を理解できるようになると、お子さんに無理な期待をかけずにすむようになります。
苦手なことを頑張って克服するのではなく、どうすればやりやすくなるのか? どうすれば伝わるのか? が分かることで、親子ともにずっと楽になれます。
発達に課題を持つことは決して悪いことではないのです。
今は支援の形もたくさんあります。
ご自分とお子さんに合った療育をぜひ探してみてください。